財務DX

スポットワーク・派遣業界の送金コスト問題とは?少額・多頻度決済を効率化する新しい決済手段

企業の決済DXを加速させるJPYC Gateway

現代の「働き方」の進化スピードは凄まじいものがあります。

「働きたい時に働き、終わったらその場でスマホから報酬を受け取る」

スポットワーク(単発バイト)アプリの普及や、派遣業界における日払いサービスの広がりによって、労働者はより柔軟な働き方や報酬の受け取り方を選びやすくなっています。 しかし、この「スムーズな労働体験」の裏側では、企業側に送金コストや業務負担が生じる場合があります。

今回は、日本の労働市場の変化によって顕在化する「銀行送金コストの課題」と、その対応策として登場した賃金のデジタル払い、さらに企業間決済や各種送金領域で注目されるステーブルコイン活用について解説します。

1. 「2時間だけ働く」が、企業の財布を直撃する理由

かつて、給与の支払いといえば「月1回、決められた日に全員一斉に振り込む」のが当たり前でした。スタッフが1,000人いれば、振込回数は月に1,000回。シンプルです。

しかし、スポットワークや日払い・即時払いなど、働き方や報酬の受け取り方が多様化するなか、働いたタイミングや申請ごとに支払いを行う運用では、従来の月1回払いに比べて送金回数が増え、送金コストが膨らむ可能性があります。

例えば、勤務ごとに報酬を支払う運用では、

  • スタッフAさん:今週3回稼働 = 最大3回の振込
  • スタッフBさん:今月15回稼働 = 最大15回の振込

といったケースも想定されます。労働と支払いの単位が細分化されるほど、スタッフ数が同じでも振込回数が増え、送金コストが膨らむ可能性があります。

ここで問題になるのが、日本の伝統的な「銀行振込手数料」です。法人口座からの銀行振込は、金融機関や契約内容によって異なりますが、1件あたり数十円〜数百円程度の手数料が発生することがあります。

たとえば、スタッフが「2時間だけ働いて2,400円稼いだ」とします。企業側がそれを即時振り込む際、もし手数料が300円かかっていたらどうでしょう。報酬の実に12.5%に相当する金額が、銀行の手数料として消えていることになります。

「働いた分をより早く支払う」という利便性を高める一方で、送金回数が増えれば、その分だけ振込手数料が積み上がる可能性があります。少額・多頻度の支払いでは、こうした送金コストが人材ビジネスの収益性を圧迫する要因になり得ます。


2. なぜデジタル送金は、「高止まり」していたのか?

「PayPayなどのスマホ決済がある時代に、なぜ銀行振込に頼るのか?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。

実は、日本の法律(労働基準法第24条)には「給与は通貨で、直接労働者に、全額支払わなければならない」という大原則(通貨払いの原則)があります。そのため、企業が勝手に「今月の給料はデジタルマネーで送るね」と支払うことは長らく禁止されていました。

2023年4月には、厚生労働大臣が指定した資金移動業者の口座へ賃金を支払う「賃金のデジタル払い」が制度化されました。ただし、導入には各事業場での労使協定の締結等が必要であり、実際に利用する労働者本人の同意も求められます。また、利用できるのは厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者のサービスに限られます。

このため、多数のスタッフへの支払いや少額・多頻度の送金が発生する人材ビジネスでは、銀行振込に伴うコストや業務負担が課題になり得ます。一方、こうした課題への対応策として、賃金のデジタル払いに加え、企業間決済や各種送金領域ではステーブルコインの活用も注目されています。


3. 「1件8円」の世界線。

ステーブルコインとは、法定通貨などの資産と価値が連動するよう設計されたデジタル資産です。JPYCは、日本円と1:1で交換可能な日本円建てステーブルコインで、資金決済法上の「電子決済手段」に該当します。

こうした少額・多頻度送金のコストを見直す新たな選択肢の一つが、「JPYC Gateway」です。JPYC Gatewayは、企業によるステーブルコインの活用を支援する法人向けサービスで、既存の業務システムと連携しながら、JPYCを用いた送金・決済の仕組みを構築できます。

銀行振込とは異なり、ブロックチェーン上で日本円建てステーブルコイン「JPYC」を送付することで、少額・多頻度の送金を効率化できる可能性があります。

JPYC Gatewayの仕組みには、少額・多頻度送金のあり方を見直すうえで、次のような特徴があります。

① 手数料の桁が変わる

JPYC Gatewayでは、送金手数料は1件あたり8円、基本使用料は月額98,000円です。例えば、従来1件あたり200円の送金手数料が発生していた場合、1万件の送金では約200万円のコストがかかります。一方、JPYC Gatewayで1万件を送金する場合、送金手数料は8万円、月額基本使用料を含めても合計17万8,000円となります。少額・多頻度の送金が発生する事業者にとっては、送金コストの削減だけでなく、支払い頻度やサービス設計を見直すきっかけにもなり得ます。

② ブロックチェーン送金がもたらす柔軟性

銀行振込の利便性は向上していますが、金融機関や利用サービスによっては、メンテナンス時間などの制約を受ける場合があります。一方、JPYCはブロックチェーン上で送付・受領できるため、従来の銀行振込とは異なる仕組みで価値を移転できます。ただし、実際の送金時間や利用可否は、ネットワークの状況や利用するサービスの仕様などによって異なります。

③ 既存のシステムと「ケンカしない」

どれだけ画期的な決済手段でも、自社の基幹システムや勤怠管理システムを何千万円もかけて改修しなければならないとしたら本末転倒です。JPYC Gatewayは、データ連携ツール「ASTERIA Warp」を介して、既存のERPや会計システムとノーコードで連携できます。既存システムとのデータ連携を構築しやすい点は、導入時のシステム連携負担を抑えるうえで重要な特徴です。


4. 「選ばれるプラットフォーム」へのパラダイムシフト

この決済DXがもたらす最大の価値は、実は「コストが浮いた」という社内の話だけにとどまりません。

「即時払いを利用したいけれど、振込手数料(あるいはシステム利用料)として数百円が自己負担になります」

少額・多頻度の支払いでは、1件ごとの送金コストがサービス設計の制約になることがあります。仮に送金コストを大幅に抑えられれば、企業は支払い頻度や手数料負担のあり方を見直し、利用者にとってより利便性の高い受け取り体験を設計できる可能性があります。 人材獲得競争が続くなか、働く側にとって、手数料負担が少なく、より早く報酬を受け取れるサービスは、大きな魅力になり得ます。


5. インフラが変われば、ビジネスのルールが変わる

かつてインターネットが普及したことで情報の流通コストが下がり、様々なビジネスモデルが激変しました。いま、それと全く同じことが「お金の流通コスト」でも起きようとしています。

毎日、膨大なスタッフの労働を支え、目に見えない送金手数料を支払い続けている人材ビジネスの現場。

「銀行振込が当たり前」という固定観念を一度外し、テクノロジーがもたらす「送金コストを大幅に削減できる新しい決済の仕組み」に目を向けてみると、自社のサービスをもう一段上のステージへ引き上げるヒントが見えてくるかもしれません。

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執筆者:赤松 智彦
Author

赤松 智彦

アステリア株式会社 / ステーブルコイン事業部

システム連携やデータ活用の知見から、企業の「財務DX」や「デジタル通貨のビジネス活用」をテーマに、日本円ステーブルコインの普及に向けた実務ノウハウや最新トレンドなどのお役立ち情報をお届けします。