国内動向

国内初、ゴルフ練習場にJPYC決済 矢田産業・喜和産業の共同開発が示すステーブルコイン活用の可能性

国内初、ゴルフ練習場にJPYC決済

2026年7月、香川県三豊市の矢田産業株式会社と東京都港区の喜和産業株式会社は、日本円建てステーブルコイン「JPYC」による決済に対応したゴルフボール貸出システムを共同開発しました。システムは2026年7月10日から、香川県善通寺市のゴルフ練習場「鳥坂GC」で運用されています。

両社によると、ゴルフボール自動貸出機へのステーブルコイン決済導入は、国内初とみられる取り組みです。なお、「国内初」は両社が2026年7月時点で調査した、国内のゴルフボール自動貸出機向けサービスにおける位置づけです。

利用者は店舗専用アプリをインストールする必要がなく、対応するウォレットアプリでQRコードを読み取り、250円分のJPYCを送金します。ブロックチェーン上で支払いが確認されると、貸出機からボールが自動的に排出されます。

国内でステーブルコインを実店舗の決済に活用する動きが広がるなか、今回の共同開発は、ブロックチェーン決済と無人機器を連携させた具体的な実用事例です。店舗運営や顧客体験、今後の無人サービスにどのような変化をもたらすのでしょうか。

この記事のポイント

両社によると、国内初となるゴルフボール自動貸出機向けJPYC決済サービスを開始
QRコードでJPYCを支払うと、自動でボールが排出される仕組み
ブロックチェーンとIoTを組み合わせた実用事例
自動販売機やコインランドリー、駐車場などへの応用も期待される

JPYCとは

JPYCは、JPYC株式会社が発行する日本円建てステーブルコインです。1 JPYCは1円相当として利用でき、日本円への償還に対応しています。資金決済法上の「電子決済手段」に該当し、ビットコインなどの暗号資産とは法的な位置づけが異なります。Ethereum、Avalanche、Polygonなどのブロックチェーンに対応しています。


JPYC決済システムの仕組み

今回導入されたのは、香川県善通寺市のゴルフ練習場「鳥坂GC」に設置された2台のボール貸出機です。

利用者は貸出機に掲示されたQRコードをスマートフォンのウォレットアプリで読み取り、250円分のJPYCを支払うことで、ボール60球を受け取ることができます。

特徴的なのは、決済基盤にパブリックブロックチェーンである「Polygon(ポリゴン)」を採用している点です。

ブロックチェーン上で支払いが確認されると、システムが連動して貸出機から自動でボールが排出されます。

従来の電子マネー決済のような専用の決済端末は不要で、Polygon上のJPYCに対応したウォレットアプリにJPYCを保有していれば決済できます。店舗独自のアプリをインストールする必要がない点も特徴です。


ゴルフ練習場に導入する意味とメリット

これまでゴルフ練習場のボール貸出機といえば、現金(小銭)での支払いや、その練習場専用のプリペイドカードを購入して利用するのが一般的でした。しかし、この従来の手法には店舗・利用者の双方に課題がありました。

今回のJPYC決済導入により、具体的に以下のメリットが期待されています。

① 現金管理コストと盗難リスクの削減

店舗側にとって、自動販売機や貸出機に貯まる現金の回収、お釣りの準備、売上集計などの事務作業は大きな負担です。また、無人時間帯における現金盗難のリスクも常につきまといます。

決済をデジタル化することで、現金の回収や集計、お釣りの準備といった業務を削減でき、現金管理コストや盗難リスクの低減が期待できます。

② 専用カード発行の手間と決済コストの削減可能性

従来の独自プリペイドカード方式では、カード自体の発行コストや磁気不良への対応が必要でした。また、一般的なクレジットカードやQRコード決済では、契約内容に応じて加盟店手数料や決済端末の導入・利用費用が発生します。

パブリックブロックチェーンを活用したステーブルコイン決済では、従来のカード決済とは異なる仕組みで決済を処理できるため、カード会社や専用プリペイドカードの運用に伴うコストを削減できる可能性があります。一方で、ネットワーク手数料(ガス代)やシステムの開発・保守費用などは発生するため、実際のコストは運用方法によって異なりますが、既存の決済方式と比較してコスト削減が期待できる選択肢の一つといえるでしょう。

③ 利用者の利便性向上

利用者にとっても、「小銭がない」「プリペイドカードを忘れた」というストレスから解放されます。店舗専用アプリをダウンロードして会員登録する必要はなく、Polygon上のJPYCに対応したウォレットアプリから支払える点は、利用者の利便性向上につながる可能性があります。


企業にとって、何が変わるのか

矢田産業と喜和産業による今回の導入事例は、今後ステーブルコインの活用を検討する一般企業にとって、多くの示唆を与えています。

① IoT機器と決済のダイレクトな融合(自動化)

今回のシステムは、「ブロックチェーン上での着金確認」をトリガーにして「貸出機を動かす」という処理を自動化しています。

この仕組みは、ゴルフボール貸出機に限らず、自動販売機、コインランドリー、駐車場の精算機、シェアサイクルなど、支払い後に機器を動作させるさまざまな無人サービスへ応用できる可能性があります。

② 地方都市や中小企業でも「攻めのIT投資」が可能に

今回の事例は、既存のパブリックブロックチェーンとステーブルコインを活用し、既設のボール貸出機とデジタル決済を連携させた点に特徴があります。導入費用は公表されていませんが、地方企業が実店舗でステーブルコイン決済を実装した事例として、今後導入を検討する中小企業にとって参考になるでしょう。

③ ステーブルコイン実用化に向けた運用ノウハウの蓄積

国内ではメガバンクをはじめとする金融機関でもステーブルコインやデジタル決済基盤の検討が進んでいます。一方で、店舗での日常決済への普及には時間がかかる可能性があり、民間発行のステーブルコインを活用した今回のような事例は、現場での知見を蓄積する先行事例として注目されます。

今回のように、すでに発行されているJPYCを実店舗で活用することには、ウォレットの管理、入金確認、返金対応、売上との照合、経理処理といった実務上の課題を検証できる価値があります。こうした運用ノウハウを早期に蓄積することは、今後ステーブルコイン決済が普及した際の円滑な対応につながる可能性があります。


「ブロックチェーン特有の課題」は残る

一方で、ステーブルコイン決済の利用には、ブロックチェーン特有の課題も残されています。

今回採用されているPolygonネットワークでは、JPYCの送金時に「ガス代」と呼ばれるネットワーク手数料が発生します。利用者自身がガス代を負担する設計の場合、JPYCとは別に、ガス代の支払いに使用するPOLをウォレットに用意する必要があり、初めて利用するユーザーにとってはハードルとなる可能性があります。

そのため、今後ステーブルコイン決済を普及させるには、ガスレス送金に対応したウォレットや、利用者がガス代を意識せずに決済できる仕組みを採用することが重要になるでしょう。実際に、ガス代を事業者側が負担する設計や、ウォレット側でガス代を代替処理するサービスも登場しており、こうした仕組みを活用することで、一般的なQRコード決済に近い使い勝手を実現できる可能性があります。

ステーブルコイン決済を広く普及させるためには、ブロックチェーンの利点を活かしながら、利用者が複雑さを意識せず利用できるUX(ユーザー体験)を実現することが重要になるでしょう。


まとめ

矢田産業と喜和産業が共同開発したゴルフ練習場向けJPYC決済システムは、ステーブルコインが単なる投資の対象や大企業の実験室の中だけにあるものではなく、地方のサービス現場で実際に機能する「便利な決済手段」になり得ることを示しました。

ステーブルコイン決済の普及には、利用者によるウォレットの準備やガス代への対応、店舗側の経理・返金手続きなど、解決すべき課題も残されています。それでも、既存設備とブロックチェーン決済を連携させ、実際の店舗で運用を始めた今回の共同開発は、ステーブルコインの社会実装を考えるうえで具体的な先行事例といえるでしょう。

今回の取り組みが示した本質は、単なる「ステーブルコイン決済」の導入ではなく、「ブロックチェーン上で確認した決済情報をIoT機器と連携させ、自動でサービスを提供する」という実運用事例が国内で登場した点にあります。今後はゴルフ練習場だけでなく、自動販売機やコインランドリー、駐車場、シェアサイクルなど、さまざまな無人サービスへと広がっていく可能性があります。

執筆者:赤松 智彦
Author

赤松 智彦

アステリア株式会社 / ステーブルコイン事業部

システム連携やデータ活用の知見から、企業の「財務DX」や「デジタル通貨のビジネス活用」をテーマに、日本円ステーブルコインの普及に向けた実務ノウハウや最新トレンドなどのお役立ち情報をお届けします。