国内動向

メガバンク3行がステーブルコインの共同発行へ。企業の決済はどう変わる?

メガバンク3行がステーブルコインの共同発行へ

2026年6月、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3行が、共同で検討を進めるステーブルコインについて、2026年度中の実取引開始を目指すと発表しました。

3行は今後、発行の仕組みや運営体制、ガバナンスについて協議を進めます。まだ一般向けサービスの開始が決まったわけではありませんが、日本を代表する銀行が共同で実用化を目指すという意味で、大きな動きです。

ステーブルコインというと、これまでは暗号資産やWeb3の文脈で語られることが多いものでした。しかし今回、想定されているのは投資や投機のためのコインではありません。企業間決済や国際送金、証券取引など、実際のビジネスで使う「デジタルな円」です。

では、これによって企業の決済や財務はどう変わるのでしょうか。


メガバンクが発行するステーブルコインとは

今回検討されているのは、日本円と価値が連動するステーブルコインです。原則として1コインが1円相当となり、ブロックチェーン上で企業や金融機関の間を移転できる仕組みが想定されています。

特徴の一つが、信託の仕組みを使う点です。利用者から預かった資金は、ステーブルコインの裏付け資産として管理されます。受託者自身の資産とは分けて管理されるため、利用者の資産を保全しやすい設計です。

もちろん、信託型だからすべてのリスクがなくなるわけではありません。システム障害や不正送金、ウォレットの管理、マネーロンダリング対策など、実際に利用するうえではさまざまな課題があります。

それでも、国内の3大メガバンクが制度設計や運営に関わることで、一般企業にとっては検討しやすい決済手段になりそうです。

3行が共同で取り組む意味

銀行ごとに別々のステーブルコインを発行した場合、利用する企業は相手の銀行に合わせてコインを使い分けなければならない可能性があります。

一方、3行が共通の仕組みを作れば、異なる銀行を利用する企業同士でも、同じ決済手段を使いやすくなります。たとえば、三菱UFJ銀行を使う企業と、三井住友銀行を使う企業の間で、共通のステーブルコインを利用するといった形です。

ただし、銀行口座の残高がそのままブロックチェーン上を移動するわけではありません。銀行口座の円をステーブルコインに交換し、ウォレット間で送付し、必要に応じて再び円に戻す。基本的にはこのような流れになります。


企業にとって、何が変わるのか

1. 国際送金が効率化する

国内の銀行振込は、すでに多くの金融機関で24時間365日の即時入金に対応しています。そのため、国内送金だけを見れば、ステーブルコインによって劇的に速くなるとは限りません。

一方で、海外送金には今も時間や手数料がかかります。送金元の銀行から中継銀行、受取銀行へと複数の金融機関を経由することもあり、相手に届くまで数日かかるケースもあります。

ステーブルコインを使えば、企業間で直接デジタルな円を移転できるため、こうした手続きを減らせるかもしれません。特に、海外子会社への送金や、海外企業への支払いを頻繁に行う会社にとっては、メリットが大きい分野です。

2. 証券と代金を同時に受け渡せる

今回の取り組みと並行して、野村證券や大和証券、メガバンク各社は、ステーブルコインを使った証券決済の実証にも取り組んでいます。対象として想定されているのは、国債、株式、投資信託、社債などです。

現在の証券取引では、証券を渡す処理と、代金を支払う処理が別々に行われることがあります。ブロックチェーン上で両者を連動させれば、証券と代金を同時に交換できます。「証券を渡したのに代金が支払われない」、あるいは「代金を支払ったのに証券が届かない」といったリスクを抑えやすくなります。決済にかかる時間や事務作業を減らせる点も期待されています。

ただし、証券決済での本格利用が正式に決まったわけではなく、現時点では実証段階です。

3. 経理や財務の業務を自動化できる

企業にとって、ステーブルコインの大きな価値は、送金が速くなることだけではありません。取引条件と支払いを自動で連動できる点も重要です。

たとえば、商品が納品された時点で自動的に代金を支払う、請求書の承認が終わったら送金を実行する、複数の取引先に手数料を自動で分配する、といった処理を、受発注システムや会計システムと組み合わせられるようになります。

現在は人が確認している入金消込や支払い処理も、一部を自動化できるかもしれません。単なる振込手段ではなく、業務システムの中に決済を組み込める点が、これまでの銀行振込との大きな違いです。

「安くて速い」が確定したわけではない

ステーブルコインについては、「数秒で送れる」「手数料が大幅に下がる」と説明されることがあります。ただ、実際にどれくらい速く、安くなるかは、まだ分かりません。

利用するブロックチェーンや手数料、本人確認の方法、円への交換方法などによって、使い勝手は変わります。国際送金では、制裁対象者の確認やマネーロンダリング対策も必要です。ブロックチェーン上の送付自体が速くても、すべての処理が数秒で終わるとは限りません。

「導入すれば必ずコストが下がる」と考えるのではなく、既存の銀行振込や送金サービスと比べながら判断する必要があります。


企業はすぐに対応すべきなのか

メガバンクのステーブルコインはまだ詳細が固まっておらず、一般企業が今すぐ専用のシステムを構築する必要はありません。

一方で、「実際にサービスが始まったら検討する」というスタンスでは、他社に一歩出遅れてしまう可能性もあります。そこで今、注目されているのが、すでに国内で流通している「JPYC」などの日本円連動型ステーブルコインを活用し、先行してPoC(実証実験)を行っておくアプローチです。

メガバンクの発行を待つ間に、現行のインフラを使って社内テストや小規模な実証実験を始めておけば、次のような準備を進められます。

たとえば、ウォレットの管理やネットワーク手数料(ガス代)の処理など、従来の銀行振込にはないブロックチェーン特有の実務オペレーションを、あらかじめ現場の担当者が体感しておくことができます。また、受発注システムや会計ソフトとの連携、スマートコントラクトによる支払いの自動化が、自社の業務フローに本当に馴染むのかを事前に検証することも可能です。

実際にメガバンクのサービスが始まったとき、すでにこうしたPoCを通じて自社の課題や活用シーンを整理できている企業であれば、スムーズに実運用へ移行できるはずです。

「まずは小さく試してノウハウを蓄積する」という意味でも、JPYCなどを活用した事前のPoCは、次世代の決済環境に向けた有効なファーストステップになるかもしれません。


まとめ

2026年6月時点で、メガバンク3行のステーブルコインは、誰でも利用できる状態ではありません。3行は2026年度中の実取引開始を目指していますが、現在は発行方法や運営体制を詰めている段階です。

それでも、3大メガバンクが共同で取り組む意義は小さくありません。ステーブルコインが、暗号資産の世界に閉じたものではなく、国際送金や企業間決済、証券取引、経理業務に使われる可能性が現実味を帯びてきました。

企業にとって重要なのは、流行に乗ってすぐ大規模なシステムを導入することではありません。自社の決済や資金管理のどこに時間とコストがかかっているのか、その課題を整理し、新しい決済手段が本当に役立つかを見極めることです。そのための手段として、JPYCなどを活用した事前のPoCは非常に現実的な選択肢となります。

ステーブルコインは、銀行振込をすぐに置き換えるものではありません。ただ、これまでの決済を補う新しい選択肢として、今後確実に存在感を増していくことになりそうです。

※本記事は2026年6月時点の公表情報をもとに作成しています。今後、発行時期や利用条件などが変更される場合があります。

執筆者:赤松 智彦
Author

赤松 智彦

アステリア株式会社 / ステーブルコイン事業部

システム連携やデータ活用の知見から、企業の「財務DX」や「デジタル通貨のビジネス活用」をテーマに、日本円ステーブルコインの普及に向けた実務ノウハウや最新トレンドなどのお役立ち情報をお届けします。